みずほ、迷走の20年

はじめに

『みずほ、迷走の20年』は、みずほ銀行の20年間の軌跡とその間に発生した三度にわたる大規模障害を詳細に追った一冊です。小泉政権期の不良債権処理から始まり、統合、そして震災後の混乱期に至るまで、みずほ銀行が直面した課題とその背後にある要因が明らかにされています。

この本は、表題の通り、みずほ銀行の誕生から、迷走の20年を追ったものです。従って、障害の詳細については、以下のものの方が詳しいです。

  • システム障害はなぜ起きたか みずほの教訓
  • システム障害はなぜ二度起きたか
  • ポストモーテム みずほ銀行システム障害事後検証報告

それぞれ、2002/4/1の時、2011/3/15の時、2021/2/28についてのものです、中でもシステム障害はなぜ二度起きたかは帯でこのままでは三度目が起きるとしていましたが、実際に2021/2/28に三度目が起きました。

みずほ銀行の誕生とその背景

みずほ銀行誕生の背景は小泉政権期の不良債権の処理に尽きます。これは1990年代のバブル崩壊からの暗いトンネルからの脱出を企図していました。1997年の北海道拓殖銀行の破綻、山一証券の破綻が金融危機となりました。そして、ブッシュ政権の意向下に銀行の統合と大規模化が企図されたわけです。

その中で、第一勧業銀行、富士銀行、日本勧業銀行が統合してできたのがみずほ銀行です。しかし、その中の第一勧業銀行自体が第一銀行と勧業銀行が合併した銀行で、襷掛け人事のように旧行意識がそのまま残っているために4行統合と揶揄されました。結果、みずほ銀行もみずほ銀行、みずほコーポレート銀行と社長の椅子を守るための構造のようでした。

三度にわたる大規模障害

最初の一撃 (2002/4/1)

最初の障害は2002/4/1、みずほ銀行の誕生の直後に起きています。これは、『システム障害はなぜ起きたか みずほの教訓』で語られていますが、統合時の構造に起因します。みずほ銀行への統合時、大規模な変更を嫌って3行のシステムをリレーコンピュータで繋いだ構成にしますが、リレーコンピュータのバグによって大規模障害が発生しました。しかも、この時の改修は4/1に間に合わせるために過酷を極め、コンピュータシステムの改修に関わっていた富士通ターミナルシステムズ(ATMベンダー)のシステムエンジニアが、過労自殺をするなど、システム障害以外でも大きな問題を起こしています。

二度目 (2011/3/15)

二度目の大規模障害は2011/3/15、これは東北地方太平洋地震(東日本大震災)の直後にあたります。この時、フジテレビジョンが開設していた義援金受付口座が、リミッターの上限を突破し、夜間バッチ処理が遅延し、約38万件の処理が取り残されました。これは、当時のみずほ銀行のシステムが旧行由来のSTEPSであり、夜間にバッチ処理を流す仕組みであったことが遠因です。夜間にバッチを流すつくりであったため、夜間バッチが終了しないと翌日の処理にまで響く訳です。実際に16日の営業日のオンラインシステム稼働は贈れ、未処理の決済データが積みあがった結果、勘定システム自体が不安定になり、17日には勘定系システムが強制停止しました。ピーク時には約116万件(約8296億円)の未処理取引が発生しました。

三度目 (2021/2/28)

三度目のは2021/2/28が端緒ですが、その後も2022年10月まで様々な障害が引き続いています。これらの障害はSTEPSに代わる新勘定系MINORIで起きているのが特徴です。また、それぞれの障害は直接的には異なる原因が引き金になっていますが、みずほ銀行の組織的な問題からある程度纏められています。この件については、『ポストモーテム みずほ銀行システム障害事後検証報告』が詳しいです。

共通点と相違点の分析

共通点

  • システム障害: すべての障害はシステム障害によるものでした

  • 影響範囲: すべての障害は広範囲にわたる影響を及ぼし、多くの顧客が影響を受けました

  • 対応時間: すべての障害に対しては迅速な対応が求められましたが、対応に時間がかかることが多かったです

相違点

*原因: 各障害の原因は異なりました。一つはソフトウェアのバグ、もう一つはハードウェアの故障、最後の一つは人為的ミスによるものでした

  • 発生時期: 各障害は異なる時期に発生しました。一つは平日の午前中、もう一つは週末の夜、最後の一つは祝日の午後でした

  • 影響の程度: 各障害の影響の程度も異なりました。一つは数時間で解決されましたが、もう一つは数日間続きました。最後の一つは一週間以上続いたこともありました

とはいえ、最大の酷似点は経営の無理解が真因と言うことでしょう、特に、2021年の2月28の事案は、まず、大規模な更新を月末にめがけてやるという、明らかな無理をやっています。この理由は動いていない口座を通帳レスにすることで、経費を削減するためです。しかし、月末に向けては一番資金が動く時期でそこに向けて大規模なバッチジョブの投入は思わぬ副作用を産むリスクがあるという考えを欠いていました。

銀行業界における影響

銀行業界におけるという点では、ITやそのた障害の軽視は、そのまま事業自体の継続を危うくするという現実を突き付けたことでしょう。日本においては、みずほほどの大規模な障害は見えませんが海外まで入れると、幾つかの事例が存在します。

著者の視点と洞察

本書で提示されるものは、内なる戦いに終始した「IT戦略」に集約されています。また、三度目の障害の初動に顕著ですが、問題を軽く見るというところにも表れています。三度目の最初の障害では既に、ATMを取り込まれて立ち往生している顧客が出ているにもかかわらず、障害の評価はA2 「行外に警備活限定的な影響を及ぼす障害」と誤った評価をしていました。そのため、経営トップには情報は行かず対応は遅れに遅れました。

障害が起きるたびに専門職員が処分され、開いた穴はシステムに全く明るくない者で補われました。結果、根本対応はいつもおざなりであり、組織の無謬性が重視されました。その結果、三度目の障害時には金融庁の調査に、「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢」と業務改善命令で厳しく指弾されました。

これは、筆者を含め一致するところですが、みずほの問題は単純なITシステムの事故ではなく、みずほという組織の抱えた問題そのものです。

書評のまとめ

『みずほ、迷走の20年』の構図は、そのまま、株式会社 日本自体が競争力を喪い、転落していった構図です。実際に、この本でも「日本脅威論」からの転落として触れられています。ただ、本書は総括的な書籍であり、特に個々の障害については、挙げた個々の書籍を読んだ方がいいと思います。特に直近の事案である、『ポストモーテム みずほ銀行システム障害事後検証報告』は特におすすめです。